世界観測
最近、空が高く見えるんだ。
僕がぽつりと漏らしたら、君は不思議そうな顔で首を傾げた。
空なんて、いつも高いじゃない?
変な人、そう言って花瓶に花を生ける君を傍らに
僕は空を見上げる。
空なんて、見上げたことなんてあまり無かったんだ。
覚えている空の色はもう何年も前のものか。
僕の記憶のなかで、セピアに色褪せてしまっていた。
何だかさ、地面って、色々なものがあるんだね。
紫陽花の家で寛ぐかたつむり
列を作って横断歩道を渡る蟻
雑草だと思って踏んでたタンポポが こんなにも綺麗に僕の瞳に映る。
貴方、何だか子供みたいね。
本当、子供みたいだ。
何だか全てのものが新しくて。
それを発見するのが 楽しくて仕方が無い。
わくわくするんだ。
冒険に出かけるみたいに。
僕は子供時代に戻ってしまったのかな?
だけどそれでも 僕はいいとさえ思えるんだ。
僕はさ、足を失ってしまってから。
あの時、もう車椅子でしか外を見られないと分かった時から。
全てを失ってしまったんだと思っていた。
地位とか
名声とか
社会に貢献してきた努力とか
僕の人生とか
変だろう?
僕は何も失っていないのに。
僕の隣には君が居て。
笑ってくれて。
そして、この地球には
飽きるほどに、まだ見ぬ物が、僕の知らないものが溢れてる。
僕は何も失っていなかった。
僕はたくさんの世界を知るチャンスを、与えられたんだ。
ねぇ、今度、望遠鏡を買ってこようと思うんだ。
今度は君と、夜の空を広げてみよう。
天体観測 星の会話を聞きに。
月の無い夜は、ランプを持って
二人で冒険に出かけてみようか。
懐中時計に、コンパス、右手に君の左手を。
今まで見落としていた、たくさんの光達。
さぁ、一緒に見つけに行こう。
最近、空が高くみえるんだ。
それは 僕の世界が回り始めた瞬間
後書き
例えば 両の脚を失っても
空はいつでもそこにあるから
モドル