第5回アンケート 巡礼の年第1年「スイス」(S160)

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2006/06/25

回答受付期間:2005/12/18〜2006/06/25

 4つの曲集から成るリストの「巡礼の年」("Années de pèlerinage")から、今回ははじめの第1年「スイス」(Première année - Suisse)のアンケートをしました。9曲それぞれに対する評価を0点から30点まででつけていただきました。

 「巡礼の年第1年『スイス』」と深い関係がある曲集が、1842年に出版された「旅人のアルバム」(Album d'un voyageur, S156, LW-A40)です。全3部から成る大曲集で、ハワードの全集では第20巻に収められています。第1曲から第6曲まで(第2曲がa・bに分かれているので全7曲)が第1部「印象と詩」で、このうち5曲が後に改訂されて「巡礼の年第1年『スイス』」に収められています。第7曲から第9曲まで(それぞれa・b・cに分かれていて計9曲)が第2部「アルプスの旋律的な花々」で、このうち2曲が「巡礼の年第1年『スイス』」の作品のもとになっています。第10曲から第12曲までの3曲が第3部「パラフレーズ」となっており、これは、はるか後の1877年に、改訂稿が「3つのスイスの小品」(Trois morceaux suisses, S156a, LW-A27b)として出版されています。
 このように、「巡礼の年第1年『スイス』」全9曲中のの7曲は、「旅人のアルバム」の曲を改訂したものになっています。残りの2曲は、1855年に新たに作られた第5曲「嵐」と、1836年に作られたまま未発表だった第7曲「牧歌」です。

 それではさっそく結果をご覧ください。

名前第1曲第2曲第3曲第4曲第5曲第6曲第7曲第8曲第9曲
LOVERYさん102830302201125
ろば〜とさん20201030030201030
Giulianoさん292015252230182430
Lyraさん282215251030151830
ユウさん29272625243011028
Pocoさん102003002010030
遊佐猫介さん2022275301015825
たかこ姫さん211518142522171016
シギさん2510122623118615
しんたろうさん101010202030201020
HSKさん131017122427191029
kazuyaさん10181420128131429
HYさん221512162021141317
anonymousさん202520301525202030
改さん10301027205152525
匿名さん51223242528201515
LOM141815211627221930
平均17.41218.94116.11822.35316.94122.00014.58812.52924.941


 平均で、第9曲「ジュネーヴの鐘――ノクターン」>第4曲「泉のほとりで」>第6曲「オーベルマンの谷」>第2曲「ヴァレンシュタットの湖で」>第1曲「ウィリアム・テルの聖堂」>第5曲「嵐」>第3曲「田園曲」>第7曲「牧歌」>第8曲「ノスタルジア」の順になりました。


 では第1位の曲から順に見ていくことにしましょう。

 多様な光景をみせるこの曲集で、最も人気の高い曲はどれなのか、非常に楽しみにしていました。結果は、最終曲の「ジュネーヴの鐘――ノクターン」が、第2位を大きくはなして第1位になりました。17人中8人が、最も高い点数を与えています。
 「『ジュネーブの鐘』はきれいです。そしてピアニスティックです。」(Giulianoさん)/「リストの中でもかなりのお気に入り。少し楽譜をさらってみましたが、涙が出そうになりました。ストレスが溜まっていても、この曲を聴くと気分が和らぎます。」(kazuyaさん)/「これは美しい。無理矢理ショパンのノクターンと比較してみるとこちらは暖かさ・幸せさをもろに感じます。」(HSKさん)/「ショパンとは異なるリストの美の表現〜パリ風な美しい嘲弄を感じます。大人の恋愛ですね。」(Lyraさん)/「この曲の旋律は非常に個性的だと想う。そして、どこか近代的・宗教的なものが感じられる美しい響き印象に残る名曲だと想います。」(匿名コメント)/「綺麗な曲だけど、中間部のメロディだけが好きであとはそれほどでも。」(匿名コメント)
 1838年12月18日に長女ブランディーヌがジュネーヴで生まれたことをきっかけに作曲が始められ(第1稿はブランディーヌに献呈されています)、約20年後に最終稿として完成したこの曲は、現代人にとっても最高の癒やしといえるでしょう。


 第2位第4曲「泉のほとりで」です。単独で抜粋されるのは、この曲が一番多い気がします。5人が第1位として挙げています。
 「この曲集の中で一番好き。流れるような旋律は最初聴いた時歌曲の編曲かと思ってしまったほど。」(シギさん)/「フジ子・ヘミングさんの演奏を聴いて、ものすごく素敵な、美しい曲だと思いました。きらきらと輝く、アルペジオは本当に繊細で優しい印象を受けます。」(匿名コメント)/「この曲は水の動きを見事に表していて非常にデリケートな曲だと想います。私はこの曲集の中で、最も美しい、繊細な曲だと想っています。」(匿名コメント)/「綺麗だけど、中途半端な感じで、もっと光る部分があれば…。穏やかすぎで繰り返しの感じが多いのもいまひとつ。」(匿名コメント)/「エステ荘に似ているので好きなはずなのですが、何故か背筋に寒気が走ります。凍えてしまいそうな音波が発せられる感じがします。正直聞いてて疲れるのでこの点数です。」(遊佐猫介さん)

 第3位第6曲「オーベルマンの谷」がきました。曲集中で最長の曲であり、なかなか馴染みにくいと感じる人も多いようですが、好んでいる人もかなり多いようです。好きと嫌いとはっきり二つに分かれました。第1位に挙げているのは6人です。
 「オーベルマンは長いが、崇高な人間だけの壮大な苦悩に惹かれます。」(Lyraさん)/「ホロヴィッツで大好きに。ラストを最初聴いた時は『飛ばしすぎじゃぁ・・・』と思いましたが、あの滝の轟音のような左のオクターヴに乗った右のメロディーが響く感じが・・・『あぁ、こう弾いてみたい!』と思わずにはいられませんでした。」(匿名コメント)/「これは感動的ですね。当初は『変な曲』で片づけていたのですが、最近魅力が分かりつつあります。」(HSKさん)/「リストの中でも傑作の一つだと思います。オーケストラに編曲しても面白いと思う。また、そんな書き方をしているように思えます。」(Giulianoさん)/「寂しさ、激しさ、繊細さ、情熱などの感情が次から次へと出てくる曲ですが、曲が長すぎるのが欠点だと想います。最初の寂しげな旋律の部分が長すぎて、初めて聞く人には退屈な曲に聞こえてしまうのが残念ですね。」(匿名コメント)/「最初のころは冒頭が暗すぎてまったく面白くないと思っていましたが、最後まで聞いてみて、特に後半の恐ろしいまでの三連和音の連続に非常に感動したのです。でも、終わり方が中途半端なところが残念でした。」(匿名コメント)/「何度聞いても理解しがたい曲です。曲が長いということもあり、最近はまったく聴いていません。」(kazuyaさん)/「全く好きではありません。というよりこの曲集の中では一番嫌っています。リストにしてはゆったりしすぎているし、そして何より長い。この曲抜粋されて入ってるCDはそれだけで敬遠してしまいます。」(改さん)


 ここにまた平均3点の差があって、第4位第2曲「ヴァレンシュタットの湖で」です。一番好きだとしているのは1人だけですが、ひそかに人気のある曲のようです。
 「一番好きです。リストの曲の中でも美しさが極まり、後にやってくる印象派の音楽に通じるものがあります。」(改さん)/「繊細さは『泉のほとりで』よりも劣るかも知れません。しかし、それでも優しいメロディはキラキラと輝いていると想います。」(匿名コメント)/「綺麗だけど、心にとどまることなく通り過ぎて行く。寂しい感じもする…。」(匿名コメント)

 第5位第1曲「ウィリアム・テルの聖堂」。これも一番好きだというのは1人です。
 「壮大で、まるで大礼拝堂の中にいるかのような印象がします(実際の礼拝堂は質素らしいのですが)。旋律も好きです。」(ユウさん)/「鐘の響きがいいですね。」(Giulianoさん)/「単純な中にも美しさ、派手さがあって良い。」(シギさん)/「初めて聞いたとき、ただかっこつけているだけにしか聞こえず、あまり印象に残りませんでした。」(匿名コメント)


 さて、興味深いことに、ここまでに出てきた曲はすべて、「旅人のアルバム」第1部の中の作品を改訂したものです。そして、「旅人のアルバム」第1部をもとにした5曲は、ここまでですべて出揃ったことになります。


 第6位第5曲「嵐」です。これは「旅人のアルバム」とは関係がなく、1855年に作られた曲でしたね。リストはこの曲で技巧を誇示しようなどという意図は全くなかったと思いますが、一般的なイメージの「リストらしさ」が最も強く感じられるのはこの曲でしょう。詩的で繊細な色のつよい曲集中にあって、異色の一曲だといえると思います。評価は上下きれいに半々に分かれました。第1位に挙げているのは2人です。
 「一番好きです。爆音で凄まじく音楽が構成されていくのは見事としか言いようがないと思います。」(遊佐猫介さん)/「最初の1音からグッとくる。大好き! 悩ましいんだけど、派手さがそれをカバーしてくれて、鍵盤全部支配してるみたいで、かっこいい!」(匿名コメント)/「リストらしさが爆発しているように思います。オクターブ、アルペジオ、重音等テクニック的豪華さが聴いているだけで感じられます。」(HSKさん)/「雷鳴が轟き、強風が吹き抜ける冒頭が印象的です。旋律は凶暴なようでどこか切なさを感じ、純粋に嵐を描いたショウピースというよりも、嵐の様子を家の中から眺める孤独な青年がいる、という感じがします。」(ユウさん)/「この曲はただうるさいだけで、感動的な激しさよりも、騒音みたいな激しさしか感じられない曲です。ドラマやアニメの大量殺人シーンのBGMにぴったりですね。」(匿名コメント)/「オクターブの乱用が好きになれません。」(Lyraさん)/「一番嫌いです。最後まで狂ったようにたたき続けるだけだし、うるさいだけの曲だと思いました。」(匿名コメント)


 比較的地味な3曲が最後に残りました。「旅人のアルバム」第2部の曲を改訂した2曲と、「旅人のアルバム」と同時期に作られていた1曲です。3曲とも、スイスに伝わる音楽をアレンジしたものです。
 このような形でアンケートをすると、どうしても点数が低くなってしまう種類の曲なのかも知れません。しかし、これらの曲も、好きな人からそうでない人までバランスよく分布しています(コメントはどうも否定的なものばかりなのですが)。それぞれの感性と波長が合う曲、合わない曲があるのでしょう。

 第7位第3曲「田園曲」です。「旅人のアルバム」第7曲cをもとにしています。
 「冒頭の旋律が美しく、また、後半エコーのように鳴り響く旋律も印象的です。」(ユウさん)/「気を張らないで聞けるのでとても心地よいと思います。リストらしからぬ感じもしますが、このような遊び心は微妙にリストっぽいと感じてます。」(遊佐猫介さん)/「これはなかなか面白い曲だと思っています。しかし少し短すぎではないでしょうか。」(HSKさん)/「あまりにも単純すぎるし、ただ単に地元の舞曲をそのままコピーした感じで、オリジナリティーがない。」(匿名コメント)/「あまりにも印象の薄い曲ですね。ただの民謡に、単純な伴奏をつけただけに過ぎない。」(匿名コメント)

 第8位は、1836年に作られていた第7曲「牧歌」。スイスの羊飼いの歌の編曲です。
 「ただのんびりした旋律が続くだけでつまらなく想っています。」(匿名コメント)/「リズムとけだるい感じの交錯がなんとも牧歌だなって。」(匿名コメント)

 そして第9位は、「旅人のアルバム」第7曲bをもとにした第8曲「ノスタルジア」になりました。
 「もちろん綺麗な旋律も出てくるのですが、冒頭の旋律がなんか変な暗い感じで、聴く気をなくしてしまうのがこの曲の欠点ではないでしょうか?」(匿名コメント)/「一番きらい。次の音を想像できないのが引っかかる。上がって欲しいのに下がるのが、我慢できない。」(匿名コメント)/「冒頭のメロディに拒絶反応してしまいます。メインのメロディも表情豊かな旋律でもないので、つまらないです。すぐに飽きてしまうところが多すぎ。」(匿名コメント)

 「旅人のアルバム」第1部のほとんどがリストオリジナルの作品であるのに対して、第2部は基本的に既存のメロディーをピアノ編曲したものです。(ですから、1836年作曲の「牧歌」がもし「旅人のアルバム」に組み込まれていたなら、おそらく第2部に入っていたはずです。)当然、第1部の方がリストらしさがよく出ているでしょうし、重要度が高いのも圧倒的に第1部でしょう。  「巡礼の年第1年『スイス』」の方でも、第1部に由来する作品の方がリストの特長がよく出ているといえると思います。今回のアンケートで、そのことがあまりにもはっきりと表れたので、驚いています。

 しかし、だからといって、今回のアンケートで最下位の3曲となった作品や、「旅人のアルバム」の第2部が、つまらない作品だということにはならないと思うのです。
 リストが自作か編曲かということを全く気にしなかったということは、よく知られています。オリジナル作品として分類される「巡礼の年」の中に、こうして編曲が少なくとも3曲入っていることからも、それは分かると思います。スイスを音楽で表現する際に、スイスの音楽をそのまま使うことは良い方法だと思ったから、リストはこのようにしたのでしょう。
 そのことを考えて、これらの作品にリストらしい魅力を期待することをやめることで、僕はこれらの曲の魅力を素直に感じられるようになりました。リストの作品であるということはあまり考えずに、スイスの素朴なメロディーを味わおうと考えれば、「巡礼の年第1年『スイス』」のなかで、自作の曲の間にうまく挟み込まれたスイスのメロディーを、楽しむことができるのではないでしょうか。(もっとも、いいメロディーだと感じないならそれは仕方ないのですが)。


 第7〜9位の3曲をかばってみましたが、残りの6曲も素晴らしいことは言うまでもありません。(それらについては、みなさんのコメントがよく語っていると思うので、僕が特になにか書くことはしないでおきます。)そして、それらが組み合わさって出来たこの一つの曲集が、実によくできているなと強く感じます。



 最後に曲集全体に対するコメントを紹介しておきます。

 「非常に重要な作品群なのですが、一部の例外を除いて私には全くといって良いほど殆どリストらしさを感じないのです。しかし爽やかな雰囲気は実に魅力的で演奏技巧に関してはリストらしいと思うのですが。」(HSKさん)

 「この作品は全体的に地味というイメージがあります。でもスイスって感じは出ているし、ほとんどが落ち着いている曲なので全体を通しては好きです。凄い好きな曲はないのですが、嫌いな曲もありません。ハンガリー狂詩曲や詩的で宗教的な調べ、超絶技巧練習曲のような作品集ではダントツ好きな曲とダントツ嫌いな曲が出るのが普通ですが、この作品集はそれがないのです。全体的に安定していると言えるのではないでしょうか? リストの技巧的な曲が好きな人には地味に思えて好みではないと思いますが、リストの落ち着いた曲が好きな自分は、まぁまぁ好きな曲集です。」(HYさん)

 「通して聴いて、あるいは弾いて真価の分かる曲がある。シューマンの「子供の情景」のように、曲が意図的に切り離せなくなっているものは無論そうだが、リストの巡礼の年第1年「スイス」は一応切り離すことが可能で、アンコールなどで演奏されるものもあるが、本当は通して聴くのがベストである。標題も知らず、曲の完成度やスケールの大きさからいうと、第2・3・7曲など、ブルグミュラーと間違われても仕方がない。しかし、全体の中ではなくてはならない曲なのだ。当時、書簡風の小説(ネルヴァルの「東方の旅」)や評論(リストの「音楽のバシュリエからの便り」)が流行し、ならば、中のものはそれぞれ独立しているのかというと、そうでもない。連続して、ようやく一つの像ができあがるのである。従って、今回はロ短調ソナタやファウスト交響曲を評価するようには考えずに、少し視点を変えて評価することにした。」(anonymousさん)

 「スイスは自然描写が素晴らしく、情景を想像する楽しみがあります。全曲通して一つの作品で無駄な曲がありません。題辞があるものは更に心に響きます。表面的な個人の感情や情熱だけのピアニストは、冴えない音楽にしかなりません。初めて聴いたのはブレンデルですが、心を揺さ振られる演奏はベルマンだけです。」(Lyraさん)




 なお、「巡礼の年第1年『スイス』」が好きだという方には、「旅人のアルバム」もお薦めしたいと思います。聞き覚えのある素材は多く出てきます、かなりの違いがあって、別の作品として楽しめると思います。
 すでに書いたように、一番重要視されているのは第1部ですが、スイスの雰囲気が好きな方なら第2・3部も楽しめるでしょう。第2部は、リストらしさをあまり感じさせない9つの小品です。第3部は、当時のスイスの音楽家の作品をもとにしたパラフレーズで、こちらは若いリストを強く感じさせるピアニスティックな作品です(そぞろごと6・7参照)。



 次回のアンケートは引き続き、「巡礼の年」の2・3番目の曲集である、第2年「イタリア」と「イタリア」補遺「ヴェネツィアとナポリ」の計10曲を扱います。みなさんの回答をお待ちしております。



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