第7回アンケート 巡礼の年第3年(S163)

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2007/10/07

回答受付期間:2006/12/30〜2007/10/07

 今回のアンケートでは、「巡礼の年」を締めくくる第3年を取り上げました。全7曲を、0点〜30点でつけていただきました。

 巡礼の年の他の3作から時期的に大きな隔たりがあり、雰囲気もがらっと変わってこれまでのような豊かな響きは失われているので、なかなか馴染めないという方も多かったようです。その一方で、独特の味、宗教的な美しさが病みつきになっているという人もいます。

 では早速結果を見てみましょう。

第1曲第2曲第3曲第4曲第5曲第6曲第7曲
アルファさん25151930101720
くらげさん26273027232128
ヨクトさん30303030303030
隆行さん15202530302529
Arai Takahikoさん30201930242530
のだめさん10152322193011
小鉄さん15202530102529
塙和也さん24152530251530
佐藤美和子さん25201030101030
美香さん0282330192428
まりあさん30202530102530
幸田衣良さん29151930151430
HSKさん1691425201923
たかこ姫さん18202230131228
O.HIDEAKIさん25152430152425
匿名1さん10211527112417
匿名2さん201223297249
LOM26252830192224
平均20.7819.2822.1728.8917.2221.4425.06


 平均で、第4曲「エステ荘の噴水」>第7曲「心を高めよ」>第3曲「エステ荘の糸杉に――哀歌II」>第6曲「葬送行進曲」>第1曲「アンジェラス!」>第2曲「エステ荘の糸杉に――哀歌I」>第5曲「ものみな涙あり」の順になりました。


 さて、いつものように第1位の曲から順に紹介しようかと思ったのですが、今回は第1曲「アンジェラス!」から順番に進んでいくことにします。コメントを読んでいて、曲集中での位置に言及しているものが多く、順番をばらばらにすると具合が悪かったからです。ハワードさんは第12巻のブックレットの中でこの曲集がcycleではない(曲集として連続して弾くように意図されたものではない、という意味でしょう)と書いていますが、聴くだけだと、リストの他のどの曲集よりも各曲がしかるべき場所にあるように思えてなりません。7曲を長調と短調で見ると、最初と真ん中と最後の曲(第1・4・7曲)が長調で、残りの4曲が短調になっています。


 ではいきましょう。

 第1曲「アンジェラス!」第5位でした。長調の3曲はベスト3を占めると予想していましたが、意外にも低い順位です。ハーモニウム(オルガンの一種)で弾いてもよいということになっている曲なので、音の減衰の激しいピアノで弾かれると印象が薄くなってしまうのでしょうか。
 「明るくて曲の展開もよくできていると思います、曲集の始まりとして相応しく、鐘の音が心地よい。」(O.HIDEAKIさん)/「これはとびきり美しい。この神聖なる曲集の冒頭を飾るにふさわしい曲ですね。」(くらげさん)/「変質的な和声を持っている作品ばかりがある曲集の中で、光が反射するような輝かしさがあり、とても印象的な曲で素晴らしいと思いました。」(幸田衣良さん)/「不思議な夢を見ているような凄い曲だと感じました。休みなく鐘が響き渡っているような雰囲気がとてもクリア。」(塙和也さん)/「最初の鐘の音の模倣だけでも素晴らしい音楽です。その部分だけ何度も弾いたりしてました。」(ヨクトさん)/「今ひとつ乗り切れなかった曲集の中で、輝いて見えたのがこの曲。艶のある伸びやかなメロディはヴァイマール時代以上です。」(佐藤美和子さん)/「音数が少ないのが玉に瑕です。旋律や和声は美しいと思います。是非ハーモニウムで聴いてみたい一曲ですね。」(HSKさん)

 第2曲「エステ荘の糸杉に――哀歌I」第6位。この曲を純粋に楽しめるかが、この曲集を好きになるかの分かれ目かも知れません。
 「美しい1曲目の直後、さあこれからが本番だ!と言わんばかりの左手のオスティナートが聴き手を異様な世界へと引き連れて行くようです。対して後半の浄化してしまったかのような様は何なんでしょう。移ろう和声の妙が透明感を増して行きえもいわれぬ世界を創り上げています。鳥肌です。」(くらげさん)/「堂々とした響きの中にある、躯の苦しみを感じずにいられない。和声的には後期ロマン派沿いの気がしますが、ただ悲しみに沈んだ感じをピアノで表しただけではないような、奥が深い作品だと思います。」(幸田衣良さん)/「個人的にこういう曲は結構好きです。俳句のような美しさと精神的苦悩が組み合わさったような曲だと思います。」(小鉄さん)/「初めて聞く人には聞き苦しいかもしれませんが、3回ぐらい聞くとこの曲のよさがわかると思います。」(ヨクトさん)/「重く、ギラギラしたメロディを丁寧に歌い上げるような曲だなぁと思いました。しいていえば、ラフマニノフのエレジーのような力強さがあります。比較するとリストのほうが聞き応えあるんじゃないかって思います。悲しいのに、ギラギラしている不思議な音楽ですよね。」(佐藤美和子さん)/「哀しいのですが、それはあきのこない悲しみを表したちょっと変わった曲であると感じます。痛々しい感覚がとても言葉にできません。」(塙和也さん)/「どうしようもない気持ちでありながら、激しく熱いのが出てるような雰囲気がとても印象的です。」(隆行さん)/「深刻ですね……。明るくなろうとしてもなかなか決定的にならないのが第3曲との大きな違いだと思います。」(HSKさん)

 第3曲「エステ荘の糸杉に――哀歌II」第3位。短調の曲の中で最高位です。
 「暗黒の闇に一筋の光が差し込む様なあの瞬間、これは美しすぎます。練習していても自分で感動してしまって、涙が止まらず練習になりません。」(くらげさん)/「前曲のやりきれない表情を引きずっているような冒頭から、それを克服していくような展開が素晴らしい。最後は救われたように幕を閉じるのがお気に入りです。」(O.HIDEAKIさん)/「エレジーらしさを感じるのは最初だけ、あとは自由と快楽を求めるかのような素晴らしい世界が広がっていくところがなんともいえませんね。」(小鉄さん)/「個人的によくできていると思いました。全体的に話しかけるような感じの曲で、最終的には安堵感に溢れた美しさへと変わっていくところがなんとも言えません。」(まりあさん)/「まるで銀色の線を張り巡らしておいた壁に電気が通って激しく光っているかのような強烈な印象を持って始まるところが非常に印象深い。彼はその苦しみを表した後に繊細な響きで終わらせるという仕掛けを作っているところもまた面白いと感じました。」(幸田衣良さん)/「これぞエレジーという曲では無いでしょうか。絶品の美しさを誇る流れるような長調部との対比ということで悲劇的な哀歌のメロディも素晴らしいと思います。ヴァーグナーの影響を感じる作品でもあります。」(HSKさん)/「全体的に、纏まりがよいとは思えませんが、星のような響きの部分は本当に素晴らしいと思いました。」(塙和也さん)/「現実と幻影が交互に現れているような幻想的な感じがリストの心境を表しているかのようです。」(Arai Takahikoさん)/「ものすごい奥が深いメロディで、聴くごとにメロディに磨きがかかってくる気がする。ただ、展開に少し押し付けがましさがあるような気がするし、次の曲へ直ぐに進むことを意味するのでしょうけれど、終わりが単音だったのはちょっと残念です。」(佐藤美和子さん)

 第4曲「エステ荘の噴水」、当然第1位です。この曲だけ知っているという方も多いことでしょう。その知名度にふさわしい傑作であることは結果を見ても明らかです。
 「今までの苦しみを洗い流すような美しい曲ですね。この曲集を支配するやりきれない表情からかけ離れた、別世界の作品という感じがします。」(O.HIDEAKIさん)/「このキャラクターピース抜きにこの曲集は語れません。晩年の作品にして、この開放感!! 素晴らしいというしかありません。」(小鉄さん)/「美しさなら様々な作品の中で一番です。トリル・トレモロが大変綺麗ですね。ラストのトレモロは(いい意味で)鳥肌が立ちます。」(アルファさん)/「体中がスーッと冷たくなるような爽快な響きを作っています。体が軽くなってフワフワと宙を歩いているような、不思議で何とも言えない快感が得られる曲だと思います。そのフワッとしたよい感じを醸し出す表現がフランスの印象派の音楽にも影響を与えたという点はピアノ音楽の歴史にとってあまりにも大きいものでありましょう。」(隆行さん)/「情景描写がまさに噴水そのもの。美しい、しかも深い。でもテクニック的に難しくて弾くとき一番苦労した曲です。」(ヨクトさん)/「この曲は今までの沈んだ心を洗う場所であると思っています。カチャカチャと音をたてているだけの曲、という批判もあるかもしれないけど、噴水の動きはもちろんのこと美しい波紋を広げたり、泡がポコポコ湧き出たりする水面を描いているように聞こえるので、リストの洞察力の鋭さには驚きました。」(まりあさん)/「水への賛美とともに、魂の浄化を願っているようにも感じられ、非常に宗教的なものも表れていると思います。」(Arai Takahikoさん)/「この曲の真の美しさはやはり第2・3曲の深刻な哀歌を聴いたあとでこそ際立つものだと思います。後世の作曲家に多大な影響を与えたのも分かるような気がします。」(HSKさん)/「存在感の大きさは若き時代以上で、奥が深いです。前曲の「押し付けがましさ」が消えて思いのほか伸びやかな展開。「アンジェラス!」とともに、面白味のない曲集の中で輝いて見えた曲でしょう。」(佐藤美和子さん)

 第5曲「ものみな涙あり」が最下位の第7位でした。
 「ここでハンガリー旋法が出てきて、この曲集においてはそれがホッとしてしまいます(笑)。これまた何とも言えない曲ですね……。」(HSKさん)/「非常に優れた精神性を兼ね備えている曲だとは思いますが、やはりこの曲も常人にはわかりにくい曲ではあるだろうと思います。いかにも晩年らしい作品だと思います。」(ヨクトさん)/「ハンガリー風だということで聞いてみましたが、やはり普通のリスト作品とは違った響きがあって、そしてこれ以上ないくらい憂鬱な曲だと思います。しかし、ー部にとても美しいところがあり、非常に感動的な作品に仕上がっていると思います。」(幸田衣良さん)/「民族的旋法にどっぷりと浸かって書かれておりますが、時折はずした音が聴く者の耳をそばだたせます。一筋縄ではいかないリスト、恐るべしです。」(くらげさん)/「絶望的な雰囲気が全体を支配し、不条理さに涙にくれるようなメロディが痛々しい。」(O.HIDEAKIさん)/「個性的になりつつあるリストのスタイルを感じることができるけれど、ただそれだけという感じの面白味のない曲だと思いました。」(佐藤美和子さん)

 第6曲「葬送行進曲」は「アンジェラス!」を抜いて第4位
 「こんなにも暗い葬送行進曲を聴いたのは生まれて初めてです。しかし、この作品もやはり、えもいわれぬ美しさを持つコーダがあり、とても素晴らしいと感じます。」(Arai Takahikoさん)/「怪しい前半と輝かしい後半の対比で幾分リストらしさを感じます。単独曲としても第7曲への繋がりとしてもバッチリ決まっているのではないでしょうか。」(HSKさん)/「「こんなことになるなんて、信じられない」と言うような重苦しい曲で、2曲目みたいに疑問に思っているかのような旋律で始まるのが非常に印象的。最終的にはマクシミリアンへの冥福を祈るような天国的な音楽へと変わっていくところは胸が張り裂けそうになり涙が溢れます。」(O.HIDEAKIさん)/「この曲集の中では一番地味でよくわからない曲かもしれません。しかし続く最終曲への流れは感動的です。」(くらげさん)/「低音がすごいことになってますが、葬送行進曲とは本来このようなものだと思います。7曲の中でも特に闇を感じさせる作品だと感じます。」(ヨクトさん)/「初めて聴いた時、あまりにも異常な和声進行にただ冷や汗を流すばかりで、言うべき言葉が見つからずポカーンとしていました。平凡な生活を送っているような私たちには想像も付かないくらい壮絶なメッセージが込められているようで、本当におどろおどろしかったです。やっと自分を取り戻したかのような終わり方も心に残りました。」(隆行さん)/「初めから汚い和音を使っていて今ひとつ乗り切れなかった曲です。確かに個性的な感じはよく出ているけれど、決して上品とは言えないし、葬送の音楽として作るべきものだったかは疑問だと感じられます。「哀歌II」よりも展開に押し付けがましさが強調していて、理解しがたい。」(佐藤美和子さん)/「曲はじめて聴いたときびっくりしました。哀しさの印象にはいろいろとあると思いますが、ここまでやると少しやりすぎな気もします。」(塙和也さん)

 最終曲第7曲「心を高めよ」第2位です。詩的で宗教的な調べの最終曲「愛の賛歌」にも通じる、ホ長調の堂々とした響き。曲集を力強く締めくくります。
 「あまりにも言葉に表せないくらい澄み切った曲です。この曲を書くにあたってリストは何を眺めていたのでしょうか?」(幸田衣良さん)/「こういうキリリと潔い曲で曲集を締めるリストは本当に素晴らしい。晩年の香りがしますが、盛り上がり方は今までになかった開放的なものですね。」(小鉄さん)/「丁寧に歌い上げるメロディに感動しました。今までの曲に現れていた押し付けがましさとは無縁の世界の広がりを見せた、若き時代以上の奥が深い音楽ですよね。」(佐藤美和子さん)/「曲集の中で最も好きになった曲です。苦しみを芸術に昇華させただけではなく、その苦しみからの解放を願うリストの思惑がよく表れていると思います。」(Arai Takahikoさん)/「死んでいくことを恐れないように決意するような力強い響きが素晴らしく、リストの全作品を締めくくるのにふさわしい曲だと思いました。」(まりあさん)



 最後に曲集全体についてのコメントをいくつか紹介します。

「私はこの曲集がリストの最高傑作であるとかねがね思っております。元来1つの曲集にするつもりではなかったようですが、結果的にはサイクルとして非常によくまとまっているように思います。どの曲も重要な役割をになっており、一曲とて欠けることは許されないでしょう。私はショパンの音楽を「白」とするなら、リストの音楽は「透明」だと思います。そのリストの作品のなかでもひときわ純度が高く孤高の境地を示しているのが巡礼の年第3年ではないでしょうか。」(くらげさん)

「実は僕は巡礼の年の中で第3年が一番好きだったりします。なので遠慮なく全ての曲に満点をささげました。初めて聴く人にとってはとっつきにくい曲集だと思いますが、何度も聴くとある意味ではベートーベンのような精神性に突然気がついたりします。」(ヨクトさん)

「初めて聞いたときは曲想のやつれように驚いていました。しかし、じっくり聴けば聴くほどそのやつれようが非常に魅力的に感じられてしまうという不思議な作品。イライラして落ち着かなくなり、どうしようもなくただ、歩き続けているかのような・・・そんなリストの姿が目に浮かんできますね。リスト全体にも言えることなんですが、こういう音楽を演奏するにはかなりの年月をかけて取り組まなければならないという考えを持っていました。しかし、こういった作品を中学生で完璧に弾きこなしている人もいると知って、大変驚いています。」(隆行さん)


「リストの作品の中で、かなり後期の作品なのでなかなか馴染めません。しかし、彼の作品の特徴である神秘性が部分的に表れていて結構すごいんじゃないかと思いました。枯れた作品ではあるものの、それなりに美しいと感じられますね。」(幸田衣良さん)

「第3年は全曲続けて聴くのが常です。スイス・イタリアよりもそのような要素は大きいのではないでしょうか。聴くたびに圧倒され、リストの最高傑作に位置づける評価も大いに賛同できますが、若者の私には到底理解できない曲集で、滅多に聴くことはありません。」(HSKさん)

「結論から言うと、いつになく面白味のない曲集だった気が。こういうような作風になって改めて若きリストの作品の存在感の大きさを思い知らされる気がします。大体、斬新な和声を使いすぎて、面白味のない枯れた作品になってしまっています。特に葬送行進曲。マクシミリアン追悼か知らないけれど、あそこまで汚い和音を使ってしまうなんてかえって下品です。終わりのほうになって綺麗になるで、全体的には充実した内容だとは思いますが。」(佐藤美和子さん)



 全体的にはやはり長調の曲が人気という結果になりました。短調の曲の中で、第3曲「エステ荘の糸杉に――哀歌II」・第6曲「葬送行進曲」の順位が思いのほか高くなったのは、第3曲には「エステ荘の噴水」と同じような清澄な音の連なりがあるから、第6曲は後半から明るくなって最終曲へと向かうところが感動的だからだと考えることができます。

 人気が出なかった第2曲「エステ荘の糸杉に――哀歌I」・第5曲「ものみな涙あり」も、よく聴けば(始まりの暗さに耳を閉ざさずに聴いていれば)、明るく輝く部分が現れます。こうして見ると、全ての曲に、浄化するような美しい部分があることに気づきます。そしてこの気高い響きがこの曲集の魅力だと僕は思っています。

 その気高さが結晶のような形で表れているのが、第4曲「エステ荘の噴水」です。この曲は単独で演奏されても十分に魅力的な作品です。だからこそこの曲だけがよく取り上げられ、曲集の他の曲はほとんど演奏されることがないのだと思います。しかし、曲集の中においてみると、周りの暗いトーンとの対比で、噴水はさらにまばゆく輝いて見えることでしょう。それだけでなく、曲集中の他の曲からも同じような光が上がっているのが感じられるのではないでしょうか。

 暗い部分を抵抗なく聴けるかが問題なのですが、コメントを見ていると、最初は馴染めなくても、何度か聴いていたりしばらく聴かなかったりしているうちに好きになってくる方も多いようでした。僕も初めは好きではありませんでしたが、いつの間にか音の暗さが心情の暗さと結びつかないようになって、純粋に音楽として聞こえるようになっていました(もっともこれはいいことなのかどうか分かりませんが)。あまり革新性など考えて気張ったりせずに、耳をすませてみてください。慣れてくると、独特の渋みのある、味わい深い世界です。

 「エステ荘の噴水」を聴いて気に入ったという人が同じような音楽を期待して聴くと、初めは驚いて飛び上がることになるかも知れませんが、じっくりと聴き込んで、この曲集の魅力が感じられるようになるといいですね。


 次回はまた時代を遡って「パガニーニによる大練習曲」を取り上げます。回答はこちらからお願いします。


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