極私的曲紹介 12 編曲作品

タランテラ(ダルゴムイシスキー=リスト)
マズルカ第2番(ティリンデッリ=リスト)
アブデュル・メジド皇帝陛下のための行進曲(ジュゼッペ・ドニゼッティ=リスト)
ロシア風ギャロップ(ブルハコフ=リスト)
同第1稿
友好的なスター――ワルツ(ペッツィーニ=リスト)





「タランテラ」(ダルゴムイシスキー=リスト) S483
"Tarantella"


2004/08/30

 この曲、冒頭からして地味な印象を受けます。暗い地下道を通っているような…。ネズミが這ってきそうな勢いです。なんか変わっているなぁ、と思いましたが、これをロシア的というのかも知れません。全体的に冷ややかで素っ気ない感じがします。コンピューターが時おり人間に対して示す冷たい態度を思い出させます。
 「予期せぬエラーが発生しました」「ハッ?」
 「予期せぬエラーが発生しました」「何で!?」
 「予期せぬエラーが発生しました」「どうにかしてくれ」
 「予期せぬエラーが発生しました」「直せや!」
 「予期せぬエラーが発生しました」「……。」
 ――という会話、体験したことありませんか?
 その後もずっと暗い雰囲気を保っていきますが、唯一の平和な箇所が現れます。やっと日光に当たったという感じで、ホッと一息。なかなか和む雰囲気で、これに似たものはちょっと思い当たりません。さて、そこからまた暗い世界に戻っていきます。最後の方、「オレは知らんよ」とでも言わんばかりの素っ気なさにはビクッとするのですが、そのまま曲は終わってしまいます。
 僕からはこれ以上書けませんが、結構やみつきになる毒気だとだけ言っておきましょう。

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「マズルカ第2番」(ティリンデッリ=リスト) S573a
"Seconda mazurka" (Tirindelli/Liszt)


2004/06/28

 ティリンデッリというのはイタリア人の作曲家です。ティリンデッリ=リストというのが3曲あったはずなのですが、うち2曲は紛失してしまったそうです。失くなった2曲を嘆いても仕方ありませんので、曲の感想に移ることにします。
 この曲は、小学校で別室に呼び出され、担任の先生と2人で話をしている子のようなイメージです。わずかに口をはさむ先生の責めるような言葉に対して、うつむきながらボソリボソリと答える子供。今思えばバカなことをしたと思うと、前をしっかり見つめることもできません。脳はフル回転で、素直な気持ちで懸命に言葉を考えますが、とてもうまく言いきれません。言葉は途切れ途切れになります。「あのねあのね、……。」
 2人にとっては真剣な場に違いないのですが、端から見ているとその子の様子が妙に子供っぽくてほほえましく思えるのです。決して明るくはないとはいえ、“暗さ”はあまり見られない曲になっています。それに、「こんな曲弾いているのは自分ぐらいのもの、録音したって一体何人がしっかり聴いてくれるだろうか」というハワードの淋しげな心情が、さらに味を出している――というのは気のせいでしょうか? なんだかとっても心に響きます。

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「アブデュル・メジド皇帝陛下のための行進曲」(ジュゼッペ・ドニゼッティ=リスト) S403
"La marche pour le Sultan Abdul Médjid-Khan" (Giuseppe Donizetti/Liszt)


2004/07/15

 この曲の現作曲者は、あの有名なガエターノ・ドニゼッティの兄という、非常にマイナーな人です。彼の曲のリスト編曲は、これ1曲(と、この曲の簡易版)しかないようです。
 この曲は、2つの正反対の雰囲気から成っていますが、どちらもやや違和感を感じます。
 まず初めに出てくるのは、ひたすら真剣で、暗めのものです。真剣なのはいいのですが、表現したい気持ちが何もなく事務的に作曲しているのか、あるいは僕とはかけ離れた世界の話で気持ちが伝わってこないのか…。宮澤賢治の「クねずみ」でのねずみの会話※注1を読んだときのような感覚に陥ります。軍隊的でもあるかもしれないこの雰囲気に、笑ってしまうのです。何事か全く見えないものの、とにかく深刻そうではある、そんな感じの部分でこの雰囲気は一旦終わります。
 そこからは明るくなりますが、これもまた完璧に楽しいとは言えず、自由を奪われた青年か、という感じです。でも、そんなことを考える前に、この始まり方は我々日本人には大爆笑ものです。聴けば誰でも分かるだろうと思いますが、「大きなかぶ」でおなじみの、あの「うんとこしょ、どっこいしょ」のリズムなのです。あの4拍子で読める文※注2とこの行進曲とが重なって、なんとも恥ずかしい雰囲気を作り上げています。その後は高音に移ったりして、やっぱり恥ずかしいのですが、まぁまぁ楽しませてくれます。聴く分にはいいけど、人前で弾きたくはないな、といったところです。
 そのうちまた深刻になってきて、はじめの雰囲気に戻ります。やはり、リスト自作の曲などと比べても気持ちが感じられません。この部分も人前で弾いたらバカバカしく感じてしまうだろうな、と思います。
 最後にもう1回明るくなります。同じことの繰り返しになりますのでもう書きませんが、高音トリルなど、さっきよりもさらに恥ずかしくなったかな、という印象です。
 結論はと言われると、答えにくいところです。傑作、良い曲だとは言えないようですが、それを認めた上で聴くと、結構楽しめる曲…、と書いておきましょう。

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※注1
「 さてタねずみはクねずみに云いました。
 「今日は、クねずみさん。いいお天気ですね。」
 「いいお天気です。何かいいものを見附けましたか。」
 「いいえ。どうも不景気ですね。どうでしょう。これからの景気は。」
 「そうですね。しかしだんだんよくなるのじゃないでしょうか。オウベイのキンユウはしだいにヒッパクをテイしなそう……。」」

「新校本 宮澤賢治全集 第八巻 童話I 本文篇」(筑摩書房)内 「クねずみ」(宮沢賢治作)p.174より〕

※注2
「『うんとこしょ、
  どっこいしょ。』
  けれども、かぶは ぬけません。」

〔「こくご 一ねん(上) かざぐるま」(光村図書 2004年度版)内 「大きな かぶ」(ロシア民話 西郷竹彦訳)p.65より〕
――“うんとこ|しょ、 |どっこい|しょ。 |けれども、|かぶは |ぬけませ|ん。  ”という4拍子で読みますよね?




「ロシア風ギャロップ」(ブルハコフ=リスト) S478ii
"Russischer Galopp" (Bulhakov/Liszt)


2004/06/30

 “ロシア風”というのがどんなものか分かれば、もう少しマトモなことが書けるかもしれませんが、とりあえず僕が感じたのは、強烈な親しみやすさです。ハワードもブルハコフのこの曲はヒット曲であった("this gallop is a veritable hit")と書いています。間違いなく一般ウケするメロディーでしょう。
 具体的なイメージとしては、お祭りか何かのときに、小さな子どもたちに風船を配っている50代のおじさんみたいな感じです。情けなくなるぐらいに優しい解れた表情をしています。厳しい性格の人でもこの曲を聴いたらきっと和めることでしょう。
 なお、冒頭だけはちょっと例外で、スーツでも着てまだ準備中かなぁ、といった印象です。やや抵抗あるかも知れません。ただ、ハワードによると、序奏とコーダは何となくベートーヴェンの有名な「トルコ行進曲」と共通性があるらしい("The second has a new introduction and coda which seem to have some subliminal connection with Beethoven's Turkish March from The Ruins of Athens.")ということですので、慣れないものではないと思います。脱力系(?)の音楽、大のオススメです。

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「ロシア風ギャロップ」(ブルハコフ=リスト)(第1稿) S478i
"Galop russe" (Bulhakov/Liszt)


2004/06/30, 2004/07/04

 最終稿とほぼ同じと思って頂いていいのですが、冒頭がものすごい怪しさを持っています。「ギャロップイ短調」の冒頭の雰囲気に似ています。スーツどころかこれは子供の敵のような――! まぁ、これがすぐに笑顔のおじさんに変身するのは最終稿と同じことです。ただ、これもやや表情に堅いところがあり、最終稿のような“笑顔があふれる”というようなのとは少し違うようです。また、最後の方では、技巧的なものを見せようという感じがちょっぴり見受けられ、「ゲッ、リスト編曲やん」と思ってしまいます。その瞬間、笑顔のおじさんの像は視界から消え、リストのピアノになってしまうのはちょっと残念です。やはり最終稿の方がいいようです。
 ただ、冒頭の怪しさが病みつきになってしまうという人はいるかも知れません。そういう楽しみはアリですね。

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「友好的なスター――ワルツ」(ペッツィーニ=リスト) S551
"Una stella amica - Valzer" (Pezzini/Liszt)


2004/05/20

 超マイナーな編曲ですが、僕がいいと思ったので紹介してしまいます。
 しかし、マイナーすぎて「Una stella amica」というイタリア語の題をどう訳せばいいのか困ってしまいました。ハワードの英訳は「A Friendly Star」です。"star" ('stella')が「星」だと、よく分からないので、“スター歌手”などの「スター」の意味にとらえました。それも"stella"が女性名詞なので、女優などということになるでしょうか。…という勝手すぎる解釈で話を進めていきます。
 この曲は、その女性スターが僕にフレンドリーに話しかけている場面に聞こえます。
 曲のどこが気に入ったかと言うと、ハワードの演奏で2:04〜2:41のところに来る部分です。右手がスタッカートでやさし〜く奏でます。スターがデリケートな心の傷をアピールしてきて、僕としてはつい彼女をいたわりたくなるような雰囲気です。こういうときって、案外僕の方が逆に慰め励まされているような感じがします。とてもハッピーな気分になれます。
 それ以外の部分も、フレンドリーな雰囲気が漂い親しみやすいです。幸せの3分半の小曲、ぜひご賞味ください。

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