極私的曲紹介 2 若年の作品

ディアベッリのワルツによる変奏曲
華麗なるアレグロ
「ラ・カンパネラ」による華麗なる大幻想曲
顕現第1番
スイスの2つのメロディーによるロマンティックな幻想曲





「ディアベッリのワルツによる変奏曲」 S147
"Variation sur une valse de Diabelli"


2004/08/27

 寮から家に帰る。このサイト関連のことを含めて、いろいろと楽しんだ後は、寮に帰らなければならない。この帰寮前の1時間ほどが、何故か1週間のリズムの中で最も(悪い意味で)緊張するときなのです。寮と家とで比べたら、家の方が落ち着きます。だったら通学生になればいいじゃないかというのは馬鹿げた話で、そうしたら堕落するのは分かっています。自ら寮を選んでいる限り、この原因不明(?)の緊張は毎週規則的に現れることでしょう。
 これが不快なのは言うまでもありません。緊張など何の訳にも立ちません。無くしたい…。
 ジョン・ケージの「4分33秒」もどきをずっと聞きながら何かをしている――これは、最も緊張が引き立つ手段です。何かを鳴らしてある状態の方が緊張が紛れていい。でも、こういうときには2つ条件があるのです。
 1つ目は、テンポが速く音符が多い曲であること。遅いテンポや“間”は、見えにくくなっていた緊張が表に現れる原因となります。そんな隙を与えない音がいいのです。
 2つ目の条件は、明るい曲ではないこと。これは理由は分からないのですが、明るい曲だと反発してしまいます。今の自分と似た感じの曲だと自然に受け容れられるのでしょうか。
 そして重要なのは、この2つ両方が、曲の最初から最後まで合っている必要があるということです。
 そんな曲、滅多にありません。部分的にスカッとするものはありますが、全ての条件を満たすような素晴らしい(?)曲を、僕は知りません。
 ――1曲を除いて。その1曲というのが、今回紹介する「ディアベッリのワルツによる変奏曲」です。この曲は、ディアベッリのワルツによる変奏曲を50人の作曲家が作るという楽しい企画にリストが参加したものですが、作曲年を見ると、1822年。リストなんと11歳! 実はこれ、最初に出版されたリストの曲(そして現存している最も早期の曲、かな)なのです。
 家で聞くときはそんなことは考えないのですが、考えてみると強烈な事実です。ハ長調の原曲をハ短調に変えているということ、しかもかなり深刻な味を出しているということ。11歳の時点で既にリストを代表するような色になっているように思えてなりません。一生を通してリストの音楽の多くに悲観的なものを感じますので…。
 寮では大した曲ではないと思っていたのが、ちょっと変な使われ方でお世話になっているこの曲。心に余裕がないときにオススメです。それを抜きにしても、リストの最初の姿ということで知っておきたい1曲ではないでしょうか。

○レスリー・ハワード(第26巻)[1:54](1/1) 
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(譜例1) 「ディアベッリのワルツによる変奏曲」 S147 ♭♭♭ 2/4








「華麗なるアレグロ」 S151
"Allegro di bravura" Op.4/1


2004/11/03

 この曲が作曲されたのは1824年、リストはわずか13歳、僕よりも年下です! 1824年以前の曲の中では一番お薦めできると思っています。
 序奏(譜例1)はゆっくりとしたものです。ヘンデル=リストの「サラバンドとシャコンヌ」を思い出させます。あの55年前に、既に自作で同じような荘厳な雰囲気をつくり出していたリストは、やはりただものではありません。
 ただし、リスト少年が本気になるのはその後の部分(譜例2)でしょう。"Allegro molto"(非常に快速に)の表示に変わり、8分音符の波がずっと続いていきます。13歳の少年がこれを作って弾いたら、周りの大人の拍手喝采を受けるのもよく分かります。後の技巧的で楽しめる作品群と同じ香りが、確かにここにあります。
 …とここまで一生懸命褒めてきましたが、今のピアニストがこの曲を弾いても人気を得ることができるとは思いません。第一長すぎて飽きてしまいます。所詮13歳、後年の作品と肩を並べられるものではありません。当時リストの音楽を聴いた人も、この少年が将来世界的にここまで有名になるとは思わなかったのではないでしょうか。
 それなら薦められないようなものなのかというと、そうでもなく、初期の姿を知る価値はあると思います。あと、小学校の前半ぐらいの子がこの曲を弾いたら、当時のリストと同じように拍手に包まれることでしょう。誰かやってみてください(笑)。

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(譜例1) 「華麗なるアレグロ」 S151 ♭♭♭♭♭♭ 3/2



(譜例2) 「華麗なるアレグロ」 S151 ♭♭♭ 4/4








「『ラ・カンパネラ』による華麗なる大幻想曲」(パガニーニ=リスト) S420
"Grande fantaisie de bravoure sur La clochette" (Paganini/Liszt)


2003/12/16

 これはあまり知名度の高い曲だとは思いませんが、パガニーニの「ラ・カンパネラ」の旋律によるリスト最初の曲です。
 大体この曲、本物の演奏を聴いたことはなく、MIDIを聴いただけなのですが、非常に気に入ってしまったので、書いておくことにします。
 とはいっても、「パガニーニによる大練習曲」第3曲の「ラ・カンパネラ」(=最終稿)が好きだという人にこの曲を聴かせても、楽しんでもらえるものではないと思います。でも、若い頃、パガニーニに憧れたリストが行きすぎたほどにヴィルトゥオーゾを目指し、こんな激しい曲を作り、そしてその後だんだん簡略化していったというのは、笑える事実です。これは、“音楽性”の大切さに気付いていったということでしょうが、この曲も聴いていて十分に(音楽的に)面白いのも事実です。それはさておき、この頃の技巧性が少しずつ失われていったのは残念にも思えてきます。
 一般的な“リスト”像の究極となるのがこの曲だ、と言えるだろうと思います。有名な超絶技巧練習曲を聴いた後、さらに物足りない人には、面白い曲だろうと思います。しかし、既に書いたように、初心者が容易に手を付けるものではないように思います。若年の作品だからと侮れるものではありません。晩年の小品の、丁度反対側にある曲と思うのですが、僕としては、単純になったあちらのほうから聴いた方がいいように思います。一生の最後の方、リストがこれまでを振り返り、そして今のスタイルが一番いいや、と作っていた曲です。音楽として必要不可欠なものだけが残っています。そこまで行かなくても、1850〜1860年代の曲と比べても、「『ラ・カンパネラ』による華麗なる大幻想曲」には無駄な部分が多い。聴き手としても余裕が出来てから聴くと、リストが必死だった頃の愚かさがよ〜く見えて面白いのです。
 そもそも、「『ラ・カンパネラ』による華麗なる大幻想曲」が、「ラ・カンパネラ」の第1稿だということ自体興味深い。(とは書いたものの、確認してみると、ハワードのカタログで「『ラ・カンパネラ』による華麗なる大幻想曲」のところに「first version of S141/3」などとは書いてありませんでした。リストが全く新しい曲を作るつもりはなく、あくまで「改訂」のつもりだったのは確かじゃないかと思いますが…。これも勝手な思いこみかも。)だって、共通点といっても、パガニーニによる主題以外、全くと言っていいほどない。リストが時代の流れに伴う意識の変化によって、どんどん改良していった結果だと言えるでしょう。「ラ・カンパネラ」を弾くときも、この辺の“美しさ”を強調したいものです。

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「顕現第1番」 S155/1
"Apparition No. 1"


2004/05/28

 「Apparitions」、これはまた訳に困りました。幽霊なのか顕現なのか幻なのか…。とりあえず「顕現」にしておきますが、一体何が現れるのか分かりませんし…。という訳で、解説はタイトル無視でいきます。
 この曲、冒頭(譜例1)からして、ふつうじゃないです。晩年の作品だと言われても納得できる気がするぐらいの不思議な曲ですが、やっぱり何か違うかな、と思います。これを書いたときのリストは、なんと弱冠22歳! なんとなく“若い”音楽です。青年の瞑想の風景に聞こえます。
 やがて想像の世界は未来へと羽ばたきます(譜例2)。何かが起こるだろうとは分かっているのだが、それ以上具現化することもなく、はっきりしない形で頭の中で渦巻いている。そんな“未来”です。あると分かっているのに見えないという点では、“地球と火星の間には何が浮かんでいるの?”みたいな感覚にも近いかも知れません。そんな微妙な雰囲気が、トレモロで上手く表現されています。
 長さ的には実際の時間より大分短縮されているようですが、やがてまた現実の世界に戻ります(譜例3)。左手はガリガリとはっきりした触感です。
 さて、しばらくいろいろと考えていますが、だんだんと暗くなっていき、そして再び未来へ(譜例4)。未来にいくと今持っている多くのものを失くしてしまう。その代わりに重たいものがついてくる。未来なんてイヤだ! 若くてラクな今のままでいたい!――こんな考えている間にも一歩一歩未来への道を進んでいるんだ。どんどん悲しくなってくる…!
 ここで急に明るくなります(譜例5)。せっかく生きているんだから、そんな暗く考えるのはやめようよ。近い将来ある楽しい出来事を思い浮かべてみよう。考えただけでウキウキするようなことが沢山待っているじゃないか。ホラ、そこに! 暗く深く考えるのはやめて、ラクにいこうぜ! ……ここは音自体がウルんでいるようで、曲中で最も夢のある感じです。極めて前向きな純粋さを感じます。
 ところが、明るい未来について想っているうちに、その興奮が今への苛立ちになってしまいます。ƒƒƒでキレます(譜例6)。やっぱり早送りされているようで、それはすぐに落ち着きますが、いろいろ思いを巡らせ、初めと同じことを考えたりしながら、次へ――。
 最後のトレモロは、それこそウットリさせるものです(譜例7)。高音でpppの美しい未来。しかし、非現実的なまでにキレイな世界は、悔しいことに長くは続きません。
 またいろいろ思いを巡らせ、最後の最後にため息混じりの音(下降)も聞こえますが、一応ハッピー(?)というぐらいの色になったところですぐに曲は終わってしまいます(譜例8)。まぁ、ちょっと想っただけで全てが終わってしまう訳ではありませんし、そんな人生では面白くありません。「今日はこれぐらいでやめとこう」というぐらいの軽い終わり方です。未来のことは待てば分かるんだから、というような“余裕”が感じられます。この辺がやはり晩年と違うところなのではないでしょうか…。

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(譜例1) 「顕現第1番」 S155/1 ♯♯♯♯♯♯ 6/4



(譜例2) 「顕現第1番」 S155/1 ♯♯♯♯♯♯ 6/4



(譜例3) 「顕現第1番」 S155/1 ♯♯♯♯♯♯ 6/4



(譜例4) 「顕現第1番」 S155/1 調号なし 6/4



(譜例5) 「顕現第1番」 S155/1 調号なし 6/4



(譜例6) 「顕現第1番」 S155/1 調号なし→♯♯♯♯♯♯ 6/4



(譜例7) 「顕現第1番」 S155/1 ♯♯♯♯♯♯ 6/4



(譜例8) 「顕現第1番」 S155/1 ♯♯♯♯♯♯ 6/4→3/4→6/4








「スイスの2つの旋律によるロマンティックな幻想曲」 S157
"Fantaisie romantique sur deux mélodies suisses"


2004/11/03

 リストが生きていた時代の曲の知名度が、今の知名度とは違うこともあるので、今はほとんど知られていないこの作品が当時どうだったのか、しっかり調べていない僕には分かりません。聴衆の人気を集めようとして作曲し、見事成功したのだとすれば、この“大曲”は大変なものだといえそうです。リストの魂の叫び(ぼやき?)であり、一般には受け容れられなかったとしても、僕はリストと2人っきりのような身近さを感じます。1836年、25歳のリストが書いた作品です。
 この曲の特徴は最初の部分に既にはっきりと現れています。左手の4音のモティーフ(これは今後何度も出てきます)、それに合わせてぬめーっと入ってくる右手。4年前の「『ラ・カンパネラ』による華麗なる大幻想曲」(パガニーニ=リスト)の冒頭部分を思い出させます。そこから急激に盛り上がり、爆発。深刻な雰囲気の後、いわゆる“狩りのリズム”が出てきます。スイスらしい明るい響きの中に4音のモティーフが入ってくると、また怪しくなります。物凄く不思議な上昇音型(若きリストの心の中で渦巻いている悩み?)が上まで達して、プチッと切れます。一応ここまでが序奏部分と言っていいようです。
 ここで、タイトルにある「スイスの2つの旋律」のうちの1つ目が現れます。非常にゆったりとしていて、スイスの田園風景そのものといった感じです。狩りのリズムや4音のモティーフも入ってきて、のんびりしたまま一段落。
 "lunga pausa"(長い休み)の後、また深刻になります。これが2つ目のスイスの旋律です。この旋律はご存じの方も多いでしょう。後年、
巡礼の年第1年第8曲「ノスタルジア」で再登場するものです。ここでは、オクターブの旋律に同音連打の伴奏(?)という、非常に鋭い形です。1回だけゆったりした雰囲気になりますが、その後同音連打は厚い6連符に変わり、より深刻になります。その後狩りのリズム、4音のモティーフなどが来て、伴奏のトレモロが終わった後、1つ目の旋律が、青年の心の傷をやや感じさせるような雰囲気で現れます。のんびりな中に少しだけ困惑したような感じがあり、なかなか魅力的です。それからは静かに4音のモティーフ、そして再び"lunga pausa"です。
 冒頭の暗い表情に戻り、“爆発”の後、狩りのリズムに入ります。ここがかなりの深刻さで、こんな色は若いリストならではです。どこまでも真剣で、正義感に燃えたような感じ。盛り上がり、あっという間にƒƒƒに。一旦途切れます。深刻な色を含んだまま、しつこく狩りのリズムで再開。この先かなり長く狩りは続きます。同じ音型の中で、いろいろと変化していきます。明るく、美しく、深刻に――。右手の分散オクターブが途切れてから、また深刻さを増していきます。ここまでされるとスカッとします。再びƒƒƒ、相当激しくなり、そしてまた一旦休み。ƒƒƒの狩りのリズムのまま始まりますが、徐々に軽くなっていきます。狩りのリズムの面影もやっと消え、久しぶりの4音のモティーフ、そして、ホッと落ち着く1つ目の旋律。長い緊張の後のこれには癒やされます。1つ目の旋律の後半で燃えてƒƒになっちゃうのも、若いリストらしくて大好きです。ぐるぐる回るような部分を経て、ある程度情熱的になりながら、曲は最後の方へ向かっていきます。すっかり落ち着き、結尾はやっぱり4音のモティーフ、綿の中を泳ぎ回っているようなトレモロで終わります。
 初心者に薦めるにはあまりにも長くて変な曲ですが、退屈な曲だとは思いません。若いリストに興味がある人、あるいは「ノスタルジア」のファンなら、聴く価値あるでしょう。また、僕のように年齢が低かったら、直感的に共感できるのかも知れません。まぁ、人を楽しませる音楽ではなく、本心を描いた音楽だと思うので、感じ方は人それぞれでしょう。あまり自信がないので、“僕は好きです”程度にとどめておきます。

レスリー・ハワード(第20巻)[18:01](1/1) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]


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