極私的曲紹介 4 ヴァイマール時代の作品

バラード
詩的で宗教的な調べ
第6曲「目覚めた子への頌歌」
第7曲「葬送」





バラード

2003/9/9

 「バラード第1番」は、わりとのんびりした感じの曲だったような気がする、というぐらいでよく覚えていません。
 …と第1番はこんな調子だというのに、「バラード第2番」は現在一番のお気に入り曲となっているので不思議なものです。この曲は冒頭からいきなり半音階の低音が鳴り、堅い雰囲気ですが、その後には落ち着いた柔らかい音で思いっきり癒やされる、といった調子。これがもう1回くり返され(というのは楽譜を見て初めて分かったことで、結構長い間、くり返しだなんて気付かずに聴き続けていました)、その後も堅く怪しい部分はますますおどろおどろしくなり、やさしい部分は相変わらずやさしく…。で、最後から1分前ぐらい、急上昇していき、いきなりやさしくなり(この部分だけは音量をガクッと落とすハワードの解釈が気に入っています)、そのまま終了。ハワードの演奏は、全体的にはやっぱり平坦…。バラード2番で一番気に入っている演奏は、ヴィットリオ・ブレシアニです。全体的に堅くもなく、柔らかくもなく、ちょうどその中間。とはいうものの、CD中の4曲のうちで一番最後に、初めてまともに聴いた曲なんですけど。この曲自体、なじみにくいということでしょうか。まぁ、最初の怪しさに圧倒されず、チャレンジしてみてください。





詩的で宗教的な調べ

2003/09/19

 何と無謀な挑戦でしょう!ハワードで聴き始めて1週間で紹介を書こうというのですから!(爆)
 でも、気に入った曲集ですし、結構聴いてはいますので、最初の頃の印象を残しておくような感じで書いておきたいと思います。

 第1曲「祈り」は想像よりの明るい曲で驚きました。楽譜の冒頭を見て「巡礼の年」最終曲「
心を高めよ」のような感じをイメージしていたのですが…。
 第2曲「アヴェ・マリア」は単純な"宗教曲"のような感じ。興味を持ちませんでした。
 第3曲「孤独の中の神の祝福」はこの中では2番目に有名で、一番長い曲です。これについては、ボレット、カツァリスでは別段何も感じなかったのに、ハワードのテンポの速い演奏を聴いて、少しきれいだと感じました。ちょっと長すぎるという気もしますが…。
 第4曲「死者の追憶」は若い頃の作品を書き直したものだそうです。楽譜を見たら、7拍子とか5拍子とかが入り交じっていた(譜例1)ので、それを意識していたら、意味が分からなくなりました。頭を空っぽにして聴くと、7回目ぐらいで大体流れがつかめてきたような気がします。ただ、どこが7拍子なのか、などと考えると全く分かりません。普通に4拍子に聞こえるのですが…(笑)。それにしても、よくあの年でこんな怪しい曲が作れたものです。「スケルツォとマーチ」や「ソナタロ短調」などと並べても良さそうな気がするこの曲には、すでに晩年への予感が感じられます。

(譜例1) 詩的で宗教的な調べ第4曲「死者の追憶」 S173/4 ハ短調 7/4→5/4→7/4→5/4→7/4


 大曲が2曲並んだ後はどうでもいい曲、というつもりはないでしょうけど、第5曲「主の祈り」は面白くありません。余談ですが、僕はこの曲のことを「Peter Noster」という人をたたえる曲だと思っていました(爆)。
 第6曲「目覚めた子への頌歌」は、リストらしさがあまり感じられない明るくて可愛らしい曲。「詩的」な曲集として、こういう曲もあっていいでしょう。
 第7曲「葬送」は超有名曲。僕はボレットで最初の2音を聞いた瞬間、嫌いな曲と決めつけていたのですが、中盤あたりになると結構軽快で明るいんですね。今は大好きです。「葬送」の曲でこんなんでいいのか、と言う気はしますが、曲の意味を忘れて楽しめます。演奏は、ボレット(1972年、1982年録音)やホロヴィッツ(1950年録音)あたりがオススメです。
 第8曲「パレストリーナによるミゼレーレ」は、エメラルドグリーンと透き通った海の青が2:1の割合で混ざったような(謎)、不可思議な曲です。非常に面白いのですが、何となく作曲にはあまり苦労していないような気も…(?)
 第9曲第10曲「愛の賛歌」は今のところあまり分かりません。好みのタイプの曲ではないので、何か書くことができるようになるのには時間がかかりそうです。なぜさほど有名でもない「愛の賛歌」が春秋社のリスト集に含まれているのかが疑問です。

 さて、一応全曲紹介しましたが、大曲から小曲まで、傑作から駄作(と今の好みだけで決めつける訳にはいかないのですが)まで、見事に(?)揃った曲集だと思います。「巡礼の年」や「超絶技巧練習曲」などと並べて、もっと知ってもらいたいものです。
 ちなみに今の時点での僕の好み順位は、第7曲「葬送」>第4曲「死者の追憶」>第8曲「パレストリーナによるミゼレーレ」>第3曲「孤独の中の神の祝福」>第6曲「眠りから覚めた子への讃歌」>第1曲「祈り」>第2曲「アヴェ・マリア」、第5曲「主の祈り」、第9曲、第10曲「愛の賛歌」、みたいです。





「目覚めた子への頌歌しょうか(詩的で宗教的な調べ第6曲) S173/6
"Hymne de l'enfant à son reveil" (Harmonies poétiques et religieuses No. 6)


2004/04/27

 タイトルに「子」が入っていますが、だからと言って子供らしい無邪気なところは見えません。これは大人の世界です(子「へ」の頌歌ですので全くおかしくないですね)。我が子をじっと見守る親のイメージです。
 非常に穏やかに始まり(譜例1)、不安げに今日1日の無事を願う祈りのような雰囲気が入ってきます。…と言ってもそうネガティヴではなく、ベースは優しい眼差しです。曲の真ん中より少しだけ後で、光が差し込んだような場面に切り替わります(譜例2)。それまで眠たそうにしていた子がパチッと目を覚ましたのでしょうか。その可愛らしさに先ほどの不安も消え、盛り上がっていきます。そして、また落ち着きを取り戻し、やさしく終わります。
 この曲の原曲は歌曲ですので、その歌詞を見れば僕のイメージがリストの意図とは外れていることが分かるでしょうね。でも、僕がこういうイメージを持っているというのは確かですので…。

 ハワードの演奏は、速めのテンポで幸福な感じが漂っています。一方オズボーンは、ゆっくりで粛然としています。いずれも子供の可愛らしさに溢れているのには変わりありません。曲の雰囲気に合っているのはオズボーンかも知れませんが、やさしく親しみやすいハワードも素敵です。個人的にはハワードの方が好みですが、これも気分によるものですね。

 なお、タイトルは「目覚めた子への賛歌」の方がメジャーですが、anonymousさんのアドバイスにより、ここでは頌歌としておきます。

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○レスリー・ハワード(第7巻)[5:29](1/12) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.comの全曲試聴ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]

(譜例1) 「目覚めた子への頌歌」(詩的で宗教的な調べ第6曲) S173/6 ♭♭♭♭ 6/8



(譜例2) 「目覚めた子への頌歌」(詩的で宗教的な調べ第6曲) S173/6 ♭♭♭♭ 6/8→3/4






「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7
"Funérailles" (Harmonies poétiques et religieuses No. 7)


2004/08/07

 曲集中ではずばぬけて有名なこの曲、演奏によってかなり気分が違い、いろいろと楽しめます。
 冒頭(譜例1)いきなり重々しく、これは葬式の鐘の音だそうですね。右手は重苦しいメロディーの繰り返しです。初めは左手の方が注目されますが、左手は同じ低音のまま変わりませんので、どんどん上がっていく右手の方が次第に目立ってきて、激しい低音にのった悲痛な色を出してきます。ƒƒƒになってしまいます。
 この部分、楽譜上では冒頭からƒのはずなのですが、ƒに聞こえるのはハワードとワイルドぐらいのものです。後々のことも考えて、最初は抑えておきたいのでしょうか? やや気が狂ったような感じもあるこういう曲では、ƒで始めて欲しいところです。ここで面白いのがワイルド。他のピアニストと比べてかなり遅く始まります。第1音が鳴ってから、耳慣れた間隔では第2音は来ず、その2倍ぐらい待っても来ず、CDプレイヤーが壊れたのではなかろうかとでも心配している頃に爆発的な第2音が聞こえます。ここまでされると笑えてくるのですが、重々しさを演出するのにこれに勝るものはないだろうと思います。ライヴ録音(1973年6月10日、ロンドン)ですので、手が滑って間が長くなってしまい、そのテンポで弾かざるを得なくなったということも考えられますが、何にせよ、冒頭部分は僕にはワイルドが一番です。他にアレレと思うものとして、軽快で速いオズボーンを挙げておきます。
 音楽は一度止まり、落ち着いた――というより落ち込んだ――メロディーが始まります(譜例2)。叫び疲れた老人が、古い思い出についてボソッボソッと語っているような様子に感じます。雰囲気は重いまま、やはり悲しみに満ちたメロディーです。右手が高くオクターヴになると、これに怪しさが付け加わり、思わずゾクッとします。
 ここでは、大体どの演奏でもいい感じですが、ノンペダルのように聞こえるツィマーマンにはやや違和感があります。
 続いて、同じ静かでも今度はやさしさに満ちた雰囲気に変わります(譜例3)。「葬送」で何故このような感じになるのか、いまいちピンと来ないのですが、回想シーンというのだそうですね。とにかく美しいものです。途中、悪魔的というか、やや生臭い感じのするところを通って、盛り上がり、明るくなります。そしてさらに盛り上がっていき、なんとƒƒƒまで達します。
 この最初の方は大体共通ですが、進むにつれてどんどん盛り上げるのがワイルド・ツィマーマン・ボレット、他はƒƒƒにしては抑え気味な感じです。
 明るくなったまま、今度はやけに楽しげになります(譜例4)。これもまた何故「葬送」なのに…と思ってしまいます。文化が日本とは違うのでしょうか? それはともかく、非常に楽しめます。ショパンの英雄ポロネーズに似ているという話も聞かれますが、英雄ポロネーズよりもこちらの方が間違いなく面白いです。ここが僕が曲の中で一番好きな部分かも知れません。ここの部分だけでもポピュラーになったらいいのにな、という気もします。これがどんどん盛り上がっていき、ƒƒになり、楽しいのか暗いのかヤバいのか愉快なのか悲しいのか何なのか分からないままヒステリックになって、深刻な上昇、そして爆発。
 …という部分ですが、まず一番楽しそうなのはボレットです。ほんとに楽しそう幸せそうです(笑)。一番盛り上がるのはホロヴィッツ、左手ミスタッチしたかも分からないぐらいの凄まじさ、最初に聴いたときはきっと愕然とします。スピードを求めるならツィマーマン。超高速で爆走しています。ワイルドはここも面白い演奏で、ぐゎっと急接近してくる様子が楽しめます。なお、上昇の最後で、ホロヴィッツとワイルドは音を追加してアルペジオにしていますが、僕はここは楽譜通りのオクターヴで鋭い響きの方が好きです。
 さて、ここで再び現れるのが、落ち込んだメロディーです(譜例5)。初めは、とにかくドーンという感じなのですが、だんだん気持ちの余裕が出てきて、そして柔らかく…。
 ここはもう雑音も響きも関係ないという感じで低音をブッ叩いて欲しいので、ツィマーマン・ワイルドあたりがいいです。やがて皆が同じ方向に向かっていきますが。
 狂乱の後にフッと出現する曲中最高の美しさ(譜例6)、これも既出のメロディーですが、間違いなく鳥肌ものです。ここが曲の一番の楽しみという人もいるぐらいです。僅かな部分ですが震えます。
 こういうところはやっぱりボレットがいいです。どちらかというと晩年のの方がよりベターです。
 そして最後のクライマックス(譜例7)、のはずですが、これはペダルを踏んで、静かに弾くもののようです。少しずつ音量を上げていって、最後の最後でガガッと上げて、すぐにppに下げてしまう、という演奏が多いです。深刻な激しさを口に含んだままの最後の3音は何とも言えない感覚です――。
 僕はこれが物足りなくて、積極的にどんどん盛り上げていくワイルドが好みです。前の部分と同じようにスタッカートで左手を弾くボレットも悪くない。ホロヴィッツが意外と抑え気味なのには驚きました。
 演奏のまとめをしておきます。僕として一番好きなのは、やっぱりワイルド。ただし初心者にはお薦めできません。次がホロヴィッツ、これは初めて聴くのにもいいかも知れません。ボレットも好きです。57歳のと67歳のと2つ持っていますが、どちらも良いです。ツィマーマンも良いとしましょう。ハワードはお手本をする気と思われるぐらいのガチガチで機械的な演奏で、楽しめません。そしてそのハワードを手本にしたのではないかと思ってしまうオズボーンは、さらに気に入りませんでした。最後にもう1つ、フジ子・ヘミングの演奏を持っていますが、これはお聴きにならないことを強くお薦めします。彼女独特の、“壊れそうな”葬送とでも言うのでしょうか、しかしこれは危険です。この曲を聴き込んだ自信がある人のみ挑戦してみてください。ホロヴィッツやワイルドにも飽きたという方はどうぞ。ショックは大きいと思います。


アール・ワイルド[12:37](3) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.comの紹介ページへ] [Amazon.co.ukの紹介ページへ] [Amazon.deの紹介ページへ][Amazon.frの紹介ページへ] [Amazon.caの紹介ページへ]
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ホルヘ・ボレット(1972年)[11:32](4) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]
○ホルヘ・ボレット(1982年)[11:24](4) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]
○クリスティアン・ツィマーマン[12:18](5) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]
○レスリー・ハワード(第7巻)[11:39](2/1) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]
○スティーヴン・オズボーン[12:00](2/2) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.deの全曲試聴ページへ]
○フジ子・ヘミング[10:36](27) [Amazon.co.jpの紹介ページへ]

(譜例1) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭ 4/4



(譜例2) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭ 4/4



(譜例3) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭ 4/4



(譜例4) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭→♯♯♯ 4/4



(譜例5) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭ 4/4



(譜例6) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♯♯♯♯→♭♭♭♭ 4/4



(譜例7) 「葬送」(詩的で宗教的な調べ第7曲) S173/7 ♭♭♭♭ 4/4





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