極私的曲紹介 6 大曲
○伝説
・死の舞踏
○その他大曲(演奏会用大独奏曲・スケルツォとマーチ・ソナタロ短調)
伝説
まぁまぁの有名曲、「伝説」。
第1曲「小鳥に説教するアッシジの聖フランシス」の方は、僕が初めてリストを意識したと思われる、フジ子・ヘミングのCDに入っていたのですが、単調で長いだけ、と思っていました。よく「アッシジ…」と言ってあの独特の雰囲気のことを笑ったりしたものです。今も気はあまり変わっていません。わずかに評価は上がっていますが。
一方、第2曲「波を渡るパオラの聖フランシス」は、デミジェンコが最初。デミジェンコは、強弱の差が激しく、まさにこの曲にピッタリ、といった感じです。始めの銀色の音から始まり、そして主題に入る。もう1つ1つの音に“意味”を持たせたような演奏で最高です!!
「死の舞踏」(ピアノ独奏稿) S525
"Totentanz - Danse macabre"(for solo piano)
2004/10/08
「死の舞踏」といっても、ここで紹介するのはサンサーンスの有名な交響詩ではありません(あの曲もリストによるピアノ編曲がありますが、僕は全く知りませんので…)。リスト自身のピアノとオーケストラのための作品(S126ii)として知られたものです。普通は、これはドイツ語の「Totentanz」、サンサーンスの方はフランス語の「Danse macabre」というように、原題で区別するようです。でも、実はこの曲のサブタイトルが「Danse macabre」なのです。「死の舞踏」と見かけたら、どちらの曲なのか、よく注意してください。
さて、ピアノとオーケストラのための作品と言いましたが、僕はその版は好きになれないということを先に言っておきましょう。この曲を聴くときは大抵ハワードの独奏版で聴くのです。この演奏なら曲自体も最高に楽しめる曲だと思います。これからの文章はそういうつもりで読んで頂きたいと思います。
この曲は、「怒りの日」(Dies iræ)による変奏曲です。「怒りの日」は、チェラーノのトマス(Thomas of Celano)(1190?-1260?)作と言われ、ベルリオーズの「幻想交響曲」の第5楽章などにも出てきます。ピアノとオーケストラ版から、ピアノ独奏の部分はそのままでオーケストラの部分をピアノにした、というかなり難しそうな版です。
冒頭からいきなり重量感のある音で、早速「怒りの日」のテーマが聞こえてきます。恐ろしげなピアノの音に、初めは圧倒されるかも知れません。一旦静まり、落ち着いた感じのベターッとした部分から、次につながります。
5つの変奏から成るということになっているこの曲、その第1変奏です。「怒りの日」は左手に隠れています(長い間これに気付かずに聴いていた僕…)。以後、心配しなくても、「怒りの日」のテーマは大体表面に姿を現していてくれます。第1変奏は、まだ小手調べというぐらいのものに思います。ピアノとオーケストラ版では、ピアノ・オーケストラ・ピアノ・オーケストラ、と同じことを2回ずつ繰り返しているのに対し、ピアノ独奏稿では仕方なくピアノ一色で同じことを2回しています。その分やや単調といえるでしょう。そうはいっても、第1変奏はそれほど楽しみにしているものではないので構いません。
続く第2変奏は、ピアノとオーケストラ版とほぼ同じです。途中から来るグリッサンド(鍵盤上で爪を滑らせて演奏すること)の連続は、かなりカッコ良く、見物です。
一旦途切れ、第3変奏。リズムのつかみにくいこの部分は、あまり存在感がなく、スーッと過ぎ去っていきます。
ここでまた一旦途切れ、第4変奏はゆっくりになります。これはさらに細かく4つに分けられるでしょう。1つ目は、久しぶりの落ち着ける場所ということで、結構癒されます。一瞬の諦めのような色の後、2つ目の部分へ。非常に静かな世界、低音が鳴ったりして、そうとう魅惑的です。喩えるならはれた星空。星が光り輝くのではなく、月を含め固有名を持つような明るい星は全て消したような空。もちろん人工の光もない。でも雰囲気は決して暗くなく夢がある…。まぁ、地球上ではありえない情景でしょうが。宇宙上のどこか遠く離れたところから、一惑星としての地球を見るような気分でしょうか。物凄い“深み”を感じます。続いて3つ目の部分。さっきほどの魅力はありませんが、高音の和音がきれいで落ち着きます。静かになったところで、4つ目。急に速くなり、沈黙を打ち破るようにどんどん盛り上がっていきます!
そして第5変奏の始まり。ピアノとオーケストラ版でもピアノの独奏が炸裂するところです。技巧的に一番興奮するところだと思います。音の粒が生き生きと流れていきます。第4変奏の静かさのおかげでこの活気は一層引き立ち、すっかり引き込まれてしまいます。(ここの疾速感においては、ハワードに勝る演奏がたくさんあるようです。でも、ハワードも充分頑張っています。)そして、オーケストラが入ってくるはずのところでもピアノが1人で動き続けます。ハワードの演奏では、興奮状態でいるときに聴かされるこの音の色彩感が、ピアノとは思えないほどに素晴らしいもので、また嬉しくなってしまいます。宇宙と通信しているかのようなこの雰囲気、オーケストラよりもずっと好きです。そんな素敵な世界でいきなりどっしりした和音が鳴り、盛り上がったまましばらくの間続きます。(いちいち表現するのはちょっと難しいので、100小節ほどとばします)。そこに突如として現れる、ppとƒƒの激しい対比。続いて砂を巻き上げる風のような感じで、曲が終わりそうな気配を見せます。ところがそこから盛り上がり、怪しげなカデンツァをはさむのです。その後がまた素晴らしい。最初にこの曲を聞いたとき――ぼんやりと聞いていたのですが――この部分には強く惹かれたのを覚えています。再び宇宙を思わせる、とも言えますし、非常に瑞々しくもあります。しかしいかにももう終わりそうな感じ。盛り上がり、ƒƒƒになり、終わり。
…と見せかけて、改めてスタートします。さっきのは、久しぶりに来た切れ目ということです。でも、これからの部分に第6変奏とは書いてありません。しかし第5変奏がまだ続いているとは思えません。どういう扱いなのでしょうか。ともかく、抜け出したくない雰囲気なので、この復活は嬉しいです。このように、終わりと見せかけて再スタートし、またすぐに終わる曲として、他に「顕現第3番」や「夕べの鐘」(クリスマスツリー第9曲)などが挙げられるかと思います。さて、これが7つに分かれています。それぞれ大体16小節前後の短いものです。1つ目は堂々と始まり、2つ目、3つ目と音符が細かくなっていきます。3つ目は規則的な16分音符の中に現れる付点のような音型が快い。4つ目、右手は32分音符です。第5変奏の始めと同様、息をする暇も与えないようなきめ細かな音に、感心させられます。ピアノとオーケストラ版ではここはオーケストラですので、独奏版の聴きどころです。5つ目、今度は堂々とした和音。6つ目は目の回るような32分音符、3度や6度の半音階、4つ目と同じように気持ち良くなれます。ここはどちらの版でもピアノです。7つ目は再び和音、さらにどっしりとなっています。ここから盛り上がっていき、鍵盤いっぱい使う音階に来ます。左手と合っていないとも言わせないような強烈な迫力です。それが終わった後の厚い和音も、夢がある感じで好きです。その後、ピアノとオーケストラ版と唯一違う点――独奏版の方が短くなっています――を経て、ƒƒƒで攻めるように進んでいき、本当の曲の終わりとなります。
演奏については、最初に書いたように、僕にはハワードしかダメです。一応持っている他の演奏を羅列しておきます。どれも好きにはなれません。楽器や録音の問題もありそうです。この曲に乾いた音は合わないと思っています。
技巧性、カッコ良さ、そして独特の奥深さを兼ね揃えたこの曲、強くお薦めします。芸術というより、芸当・エンターテイメント性の方が強い気もしますが、素晴らしい作品であることには間違いないでしょう。是非ハワードさんの演奏でお聴き下さい。
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○アーナルド・コーエン(ナクソス第1巻)[15:13](8) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.comの全曲試聴ページへ]
○パスカル・アモイヤル[16:29](3) [Amazon.co.jpの紹介ページへ][Amazon.co.ukの紹介ページへ][Amazon.deの紹介ページへ][Amazon.frの紹介ページへ]
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その他大曲
2003/09/21
リストは、演奏時間10分前後のピアノ曲はいくつも作っています。今、思いつくままに例を挙げていきますと、メフィストワルツ1〜3番、孤独の中の神の祝福、死者の追憶、葬送、オーベルマンの谷、タランテラ、エステ荘の糸杉に――哀歌II、回想、夕べの調べ、ハンガリー狂詩曲のいくつかの曲、などなど…、きりがありません。
でも、これらの曲は、一般的に「大曲」とは言われていません。初心者の方だったら、10分というとかなり長いように感じるかも知れませんが、リストがもっと手を込めて作り上げた力作があるのです。僕の感覚では、大体15分以上の曲でしょうか。初めて聴いたときには、何が何だか分からないが、聴けば聴くほど自分の中で理解度が増し、曲が深みを持ってくる、というのがこれらの曲の特徴であり、特長でもあります。リスト聴き始めの頃に聴くと、リストが嫌いになってしまいそうですが、曲の面白みを感じられなくてもそういうもんなんだ、と思っておいてください。
※「ダンテを読んで」の解説がこの位置にありましたが、巡礼の年第2年のページに移動させました。
「ダンテを読んで」の後に作られた「演奏会用大独奏曲」♪は、さほど好きにはなれないのですが、ソナタの先がけとなる20分前後の大曲だそうです。「ダンテを読んで」よりは単純みたいですので(長いですが)、あれに挫折した人は聞いてみてください。ただ、CDが手に入りにくいのが難点です。やっぱり、「ダンテを読んで」ですね(笑)。
お次は、とんでもなく難しいので、有名になれないという恐ろしい曲、「スケルツォとマーチ」♪です。タイトルにおいて、超絶技巧練習曲第8曲「狩り」とつながりがあるみたいですので、あのような雰囲気を思い浮かべていたら、期待を裏切ることになりそうです。…もっともっと、暗く怪しく爽やかな曲です(!)。
比較的聞きやすい冒頭からしばらくすると「タリタリタリタラタラタラタリタリタリタラタラタラ…」という休む暇もない高速パッセージ部分(譜例4)に入ります。リズムからすると「小人の踊り」に似ているかも知れませんが、音の怪しさが全然違います。
そのまま少しずつ緊張感が高まっていくと思っていたら、急に落ちるところ(譜例5)へ。大好きなデミジェンコの演奏では、ここの爽快感がたまりません。そしてまた前に戻ります。
実は「スケルツォ」の部分はこれで全てだったりします。分かりやすいですね。
…と思っていたら「マーチ」へ。長調なのか短調なのか分からないメロディーで、音量も低め、霧の中でのマーチのようです。怪しい怪しい…。この雰囲気で続けられたら参ってしまいますが、単純は単純ですので分かりやすくはあります。そして、またスケルツォへと戻ります。
前半と変わりはないので言うことはありませんが、沈んだマーチの後の爽やかさがいいです。そして、最後は(曲を聴きながら書いている訳ではないので、最後を思い出すのに30秒ほどかかりました)、いかにもありがちな「ジャジャ〜〜ン!!」、もう本当に「終わった〜」って感じです。
リスト全体的には、ボレットのペダルを聴かせた、ゆったりとした演奏が好きだった(過去形!?)僕ですが、「凶星!」というタイトルでも合いそうなこの曲は、暗さ、怪しさを乗り切るためにも軽快な演奏が良いです。デミジェンコお薦め!
(譜例4) スケルツォとマーチ S177 ♭ 2/4 6/8

(譜例5) スケルツォとマーチ S177 ♭ 2/4 6/8

(譜例6) スケルツォとマーチ S177 ♭♭ 4/4

(譜例7) スケルツォとマーチ S177 ♭ 4/4

そして最後に「ソナタロ短調」♪。30分位の超大作。リストのピアノ曲では多分最長だと思いますが、これについてはこれまでのように詳しく、音楽を聴かずに(!)説明するのは不可能です。理由は2つ、1つは僕がこの曲をあまり聴いておらず、理解度が低いから(それはもちろんこの曲が長いからです!)、そしてもう1つは、この曲があまりにもいろいろな面を持ちすぎているから!!
「スケルツォとマーチ」のような曲を作っているリストですから、唯一のソナタ(実はそうじゃなかったりもするのですが…)もやっぱりロ「短調」です。でも、その中で荘厳になったりやさしくなったり軽快になったり激しくなったり…。「ダンテを読んで」はレンガ色、「演奏会用大独奏曲」は濃い灰色、「スケルツォとマーチ」は宇宙の闇黒を感じさせるのですが、ソナタはレインボーなんです。
つまり、複雑ってことですね。ハイ。演奏はかなりの数売られていますが、まずは32分46秒のデミジェンコ、24分3秒のハワード(最短)あたりを聴いてみてください。慣れてきて覚悟が出来たら、41分38秒のアファナシエフ(余裕で最長)も買ってみてください。あまり聞き込んでいないので、これ以上は書けません。すみません。
リストが手を込んで作り上げたこれらの大曲ですが、欠点は"長いこと"(爆)です。時間がないとこういうのは避けがちです。慣れるのに時間がかかるのも仕方ないのかも知れません。でも、もちろんどれも"傑作"です。"リストの世界"を聴けるこれらの大作、是非挑戦してみてください。
なお、リストはこの後に「バラード2番」を作曲しており、これも大曲と呼ばれることもあるのですが、これについては別のページでまとめていますので、ここには書きません。バラードのページを参照してください。
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